私は「脳の電場」第2版(Nunez and Srinivasan, 2006)の日本語訳という事業に2018年11月から取り組んでいます。残念ながら日本ではまだ出版社が見つかっていませんが、気にせず進めています。各章がだいたい50ページぐらいあって、それを訳すのに大体3-4か月かかります。この本は全11章530ページからなり、それに加えて12個の付録74ページ、索引の6ページを合わせると全610ページあります。今のところ第3章は飛ばして訳を進めています。これはある出版社のアドバイスで短縮版を出す可能性を考慮し、この本の首席著者のポール・ヌニェス博士にその相談をしたところ第3章を削るとよいというアドバイスをもらったためです。私は訳しながら読み進めているので、おそらくこの本を読んだ人たちの中で最も遅い読者でしょう。非常に楽しく翻訳を進めています。
この本のことを知ったのは2010年代初頭で、SCCNの本棚にこの本の第1版が所蔵されていました。私は本書を手に取って、ページをパラパラめくってみました。すると次のような図が目に飛び込んできました。
左側には、脳、後頭部表層のダイポール層、それが生み出す電流分布、頭皮上電極、そして電圧計測の回路が描かれています。これは良いでしょう。右側には、無限、足、そして「便器」が描かれています。 最後の物体は落書きも同然ですが、権威あるオックスフォード出版からこれ出版させるという気合の入ったいたずら精神が印象に残りました。ロックですね。
もう一つ、本書で印象深い箇所があります。それは首席著者の指導教員だったカリフォルニア大学サンディエゴ校のレジナルド・ビックフォード博士が第1版の緒言に書いた次の言葉です。「・・・著者らは自分たちが得意とする物理学の術語をあまりにも自然に振り回し、脳波研究のフィールドに狼藉をなしていた多くの無根拠な権威、『聖なる牛たち』を気軽に屠殺して歩いた。」この師にしてこの弟子あり、脳波研究史上に残る名句ですね。ロックです。