このGYREEのロゴは、私にとってはいわば小さなアート作品です。実は社名の前にこのロゴのデザインがあって、そこから社名が取られたのです。このロゴは、GYREEという辞書には載っていない造語の繰り返しからなっています。もしあなたが脳電の研究者なら、この円環(gyre)の、いわば「ウロボロス」構造のロゴの中にある隠されたシンボル、GYRE-EEG-GYRE-EEG-…を見逃すことはないでしょう。われらが「脳の電場」Nunez and Srinivasan (2006)によれば、頭皮上計測可能な大きさの脳電の主要な起源は、複数の大脳皮質回(gyri)にまたがる電流源で、その大きさは6.45平方センチと見積もられています。GYRE-EEG-GYRE-EEG-…(円環、脳電、円環、脳電)と綴られた円環を見ながらGYREE、GYREEを発音すると、脳電の起源である「大脳皮質回、大脳皮質回」と唱えることになるのです。これぞ現代の脳電曼荼羅。このコンセプトでさらに遊ぶために、このロゴを一筆書きで描いてからフーリエ変換し、それをフーリエ級数のサブセットが構成するエピサイクルの多重の円周の運動(gyri)で経時的に描いてみました。これは、ダジャレの数学的拡張です。フーリエ変換は脳電の解析に多用されますが、古代ギリシア人の哲学者に言わせれば、フーリエ変換は世界が円周で構成されているという信仰告白ということになるのかもしれません(もっとも、分解可能であるということと、構成されているということが同じかどうかは、議論の余地がありそうです。)
このロゴの直接のアイディアとなったのはThe Gyreというイェーツ(1865-1939)の詩で、20年以上前に読んだ大江健三郎「燃え上がる緑の木」に引用されていたものです。こんな昔の記憶が今起業にあたって役に立ったのは意外な喜びでした。もう一つ、このロゴを気に入っている個人的な理由があります。私は学士を西洋哲学でとったのですが、卒論でテーマに選んだのはニーチェで、彼の謎めいた「円環の思想」永遠回帰の世界観が、このロゴの構成に今でもうっすらと見えるのです。したがって、円周運動、大脳皮質回、そして脳電からなる脳電曼荼羅は、人文学的な解釈をすればイェーツのGyreをニーチェ的な円環構造にしたものともいえます。それらの象徴の組み合わせの意味を占うなら、ずばり「がんばりましょう」ではないでしょうか。これを起業へのはなむけとして受け取り、自らを激励したいと思います。