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EEG Swartz Center/UC San Diego

論文出版: オーディオ迷路課題を使ったヒトの空間探索移動中の脳活動

ジャーナルのページ

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/ejn.15131

オーディオ迷路というのはスウォーツセンターの行動中の脳身体計測法の諸プロジェクトの目玉企画であり、何億円もの予算を取り、専用の実験室が「下の階」にここ十年来鎮座してきたという経緯があります。目隠しした被験者が何もない空間の中を「手探り」で歩き回り、コンピューターによってプログラムされた「壁」に手が触ると音が鳴って接触を知らせる、という課題です。目隠しされた被験者の移動速度は自然と遅くなり、また空間探索は右手を伸ばしてのみ行えるため、その典型的な行動パターンを何度も繰り返して行うことから、事象関連脳電位の研究に意外と適した課題になりうる、ということの実証実験ですね。

本実験の中での一番重要な点は、目隠しをしていたのに後頭葉で重要な脳活動の変化が見られたということでしょう。通常、後頭葉というと視覚処理がまず連想されるわけですが、目隠しをしていますからね。ベルリンの同僚たちはこの手の空間探索移動課題の論文を何年も前から10本以上出していて、後部帯状回の尻尾の下にある板状回という部位がこの手の処理に関わっていると主張しています。まあ一般論でいえば、脳の機能分布的には板状回は確かにそういう機能を持つのでしょう。しかし頭皮上計測脳波で板状回の活動を推定するというのは私には無理な試みのように思えます。それよりも、 舌状回が後部海馬傍回場所領域に該当するという文献を見つけ、このほうが頭皮上計測脳波としてまだ計測可能だなと思いました。ですので結果の解釈は舌状回により強調を置いて行いました。

脳波の解析で先進的な手法の試みとして、グループレベルの情報流解析ツールを使って時間遅れのある接続解析を脳領域間で行いました。このグループレベルの解析ツールは、私がカリフォルニア大学ロスアンジェルス校との共同研究のために開発したものです。予測された通り、後頭部と下頭頂部を中心とした時間変化するネットワークのダイナミクスを捉えることができました。

この論文は25ページもの長さがあり、12000語と14個の図(付録にはさらに3個の図があります)からなります。大学院生やポスドクには、こういう論文を書いてはいけないという見本にしています。こういう論文を書いていると、経歴を危険にさらす 恐れがあるからです。実験パラダイムも新奇、解析法も新奇、それでいて心理学的にうまく組まれたトップダウンな問題設定はない、などがその原因です。ある意味、私がこの任を引き受けることになって良かったのかもしれません。手間がかかるとは思いましたが、私のポジションでは経歴をリスクにさらすということはないので。